読書は娯楽!!

読書は立派な娯楽!をモットーに面白い本のあらすじ紹介とネタバレ感想を記す。

天国までの49日間  櫻井千姫 

 

 

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あらすじ

中学生の安音はいじめを苦にして自殺。いじめっ子たちに復讐をする為、恨みの籠った遺書も作りもう人生に未練なんてなかった。

 

 しかし、四十九日までは現世に幽霊として留まり、天国行きか地獄行きか自分で選ぶ必要があるとのこと。

 安音はこれ幸いと復讐が成功しているか確認するも遺書は飛ばされ、いじめの事実は隠ぺい、自殺までして伝えたかったことは何一つ伝わっていなかった。

 対照的に自分に無関心だと思っていた家族が悲しむのを見て安音は自殺を後悔する。

 

傷心の安音は自分の事が視えるクラスメート、榊の家に転がり込む。無愛想でどこか冷めた彼と話すうちに自分を見つめ直すことなって…。

 

 死んでから気付く生きる意味とは、本当に大切なものとは。

中学生の等身大で描かれる世界は大人になって忘れた気持ちを感動と共に思い出させる。

 

 気付けば心を打たれ、前向きに生きようとする気持ちになれる心に染みる一作。

 

 スターツ出版株式会社

    文庫本   本編 426p

         作者あとがき 2p 

 

 

 

ネタバレなし感想

 この作品は2008年にケータイ小説として執筆された作品であり文章が口語に近く、非常に読みやすい。

 舞台も中学校で多くの人がイメージしやすい設定であり、この本の主人公は物語開始時点で死んでいるので学校ものにありがちな登場人物過多現象も無い。

また、ストーリー展開も派手で飽きることなく場面が変わって目まぐるしいほど詰め込まれている。

読書初心者が長編に挑戦するときに推したい一作。

 

主人公の安音は中学生らしい自己中心的な感性で描かれていて、安音の一挙一動は大人の読者の自分からすると少しイタイと感じることもしばしば。だからこそ大人の凝り固まった感性が物語を通してほぐれる感覚がある。

逆にもう一人のメインキャラクターの榊は大人の感性に近く、自分が感じた安音に感じたツッコミを代弁してくれる存在だ。ただ、棘のある言い方をしている部分は、思春期らしい若さを感じられ、リアリティのある中学生同士のやり取りだと思える。

 

本作品最大の魅力は主人公をはじめとした登場人物の感情表現の豊かさである。

言葉遣いや台詞の内容はもちろん、地の文と言われる登場人物の行動を示す文章にも感情が丁寧に描写されている。

これが本作を通して心打たれる人が続出する大きな要因だろう。文章毎に感情に働きかけてくるので、最終章では心がブランコのようになり、作者が力を入れた方向にぐんぐん感情が加速していく。

 

私は特に安音の母が仏壇の前で懺悔し続けるシーンに心震わされた。

 

これ以上の感想は先入観になってしまうのでお互い読み終わった後に語りましょう。

 

 では、読了後、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

 まず急なファンタジー要素にびっくりした人手を挙げなさい。

 文庫本の裏表紙あらすじにも一言も書いておらず、私自身ビックリした。ホントに。

 よくよく考えたら四十九日幽霊になるという設定もかなりファンタジーではあるけど。

 

 前半はぬ~べ~ぽいな、と思っていたら中盤は学校の怪談みがあって、最後は殺意に満ちた笑えないガチホラーで。おすすめする時に言った「派手な展開」とはこういう事。

 ファンタジーパートはこの本のメインでは無いのだが、繋ぎとして必要不可欠であり、他の要素では代替不可能だと感じた。感想としては初見のビックリが一番。このビックリ感はネタバレを一切踏まず、提示されたあらすじだけしか見てない者の特権なので嬉しい。

 

 

本作品の最も魅力的なところは主人公の死後、生前大切にされていないと思っていた家族(主に母親)が本当は主人公の事を愛していて心を深く痛め彼女の死を心の底から悲しむシーンだ。

仏壇の前で懺悔するシーンはリアリティに溢れ感情移入が止まらなかった。私は文章を読んでいるうちにお母さんの気持ちに入り込んでしまい、視界が滲んで物語を一時中断する羽目になった。

 

 意識しない日常は怖いもので本当に大切なものを大切であるという自覚がどんどん薄れてしまう。掛け替えのない家族という存在をどこにでもある存在や忌み嫌うべき存在と間違え、無下に扱い本当の価値を見失ってしまう。

 

 私が作品から最も感じた解釈だ。

 私自身の反抗期は安音よりもかなり穏やかだったが、親を煩く感じる気持ちには非常に共感できる。

 当時は奇跡的に家族を失わず、反抗期を超え雪解けの時代を迎えることが出来たが、家族と距離を置いている間に何かあったらと思うとゾッとする。

 反抗期は親離れの途中であり親が本当に不要な時期ではない。と、この作品で気付いた。

 

 対照的に親から見れば子供はいつまでも子供であり、喧嘩等で距離が一時帝にあくことがあっても離れたくなる期間などは存在しないのだろう。

 「最大の親不孝は先に死ぬこと」とあるが、その文章単体だけではハリボテであり何の重みも感じない。しかし、この作品を通して見ると先立たれた家族の描写が丁寧に描かれており、確かな重みを持った言葉として受け止めることが出来る。

 

 この文を読んでいる方に親が存命の方いるなら他愛もないLINEを、もし反抗期の方がいるなら今日だけは素直に言葉を交わして欲しいと心から思う。いい本を読んだからと言って素直にいい人になれる訳じゃない。故に、改めて感謝の言葉を口にするなんてことは不要。ただいつもより少しだけ優しくなるだけで十分だと思う。

また、家族に限らず、日々の暮らしで忙殺されている、長く付き合っている人への気持ちを見つめ直したい。

 

 

 

 反対に最も気になるシーン担任教師の扱いだ。

 作中でずっと憎むべき対象として書かれ、クラスのいじめに見て見ぬふりをする“冷たい”大人の代表例として描かれ。

 いじめをしていた元友人やクラスメート、学校は非を認め大団円で明るい未来に向かって歩き出すものの、担任だけ現実から目を逸らすよう発狂、狂人ムーブをかましてからの懲戒免職からの精神病院送り。

 

 なんだこれは。

 

 いじめをした人も、いじめを黙認していた人もそれぞれ異なる事情があって、流れに逆らえず苦しい思いをした。いじめをする悪、被害者、そして正義のヒーローになれない傍観者。 それぞれの立場に違いはあれど、個々人で見れば誰もが弱くて自分の集団での立ち位置を守るために罪悪感を抱えて生きている。だからこそ素直に打ち解けあえる、家族友人を大切にすることが大切だと書かれていた。

 

 それにも関わらず、彼だけは蚊帳の外でずっと嫌われっぱなし。過去を掘り下げることなく「理解できない存在」として物語からキックアウトされる。この物語の“いじめられっ子”と言えるだろう。

 この作品はいじめに関わる人すべての角度からの目線が丁寧に描かれた素敵な作品だ。作者自身が心の底からこの世の中にあるいじめを解決したいと願っていることが伝わっているし、予防策も記されている、実際にいじめが起こったときの対処法も描かれ、作者の感受性の高さもキャラクターの台詞からひしひしと伝ってくる。

 

そんな作品の中にも生まれる“あぶれる登場人物”

 

 この世界からいじめをなくすのはやはり困難かもしれない―。

 

 

 

 

 皆さんの感想も是非聞かせて下さい。